身持のよくない男で、本職の鏝《こて》よりも賽《さい》ころを持つ方を商賣にしてゐる。さうして、丁度去年の暮頃から博奕《ばくち》に勝つたと云つて、急に身なりを拵《こしら》へたり、酒を飮んだり、女を買つたりして遊びあるいている。いや、まだそればかりでなく、馬喰町の女隱居の殺された晩にも、あいつは夜が更けてから歸つて來て、木戸を叩いて竊《そ》つと入れて貰つたといふことだ。
おかん そのほかにも色々怪しいことがあるから、どうしても勘太郎の仕業に相違ない。今度の一件も十に九つはこつちの物だと、大屋さんも大變よろこんでゐなすつたのだが、どういふわけでそれが急に引つくり返つてしまつたのかねえ。
願哲 流石《さすが》の大屋さんも今朝はよつぽど苦勞ありさうな顏をして出て行つたといふから、どうもむづかしいのかも知れないな。
與助 八さんのいふ通り、勘太郎がゆうべ歸されて來たのが論より證據だ。
おかん 困つたことになつたねえ。(權三に。)おまへさん。どうするえ。
權三 どうすると云つて……。おれも面喰《めんくら》つてしまつた。おい、助十。どうも困つたな。
助十 まつたく困つたな。だからおれが止せといふのに、手
前へ
次へ
全84ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング