までもねえ。どうで所拂《ところばら》ひか追放にでもなる奴等だから、お慈悲で當分歸してくれたのだ。手前達は知らねえのか、左官屋の勘太郎はきのふの夕方、無事に歸されて來たぞ。
助十 (おどろく。)え、ほんたうか。
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(權三もびつくりして出て來る。)
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權三 おい、おい。ほんたうか、本當か。
おかん 本當に勘太郎は歸されたのかえ。
助十 そりやあ些《ちつ》とも知らなかつた。(又かんがへて。)やい、手前。おれ達をかつぐのぢやあねえか。
助八 (すました顏で。)まあ、かれこれ云ふことはねえ。論より證據だ。豐島町へ行つて勘太郎の家を覗いてみろ。今ごろは鼻唄で祝ひ酒でも飮んでゐらあ。
權三 こりやあ驚いたな。どうしたのだらう。
おかん やつぱり人違ひだつたのかねえ。
雲哲 なるほどさう云へば、お奉行所からの差紙《さしがみ》で、大屋さんと彦三郎さんは今朝早くから數寄屋橋へ出て行つたさうだ。
助十 ふむう。(權三と顏をみあはせる。)
與助 大屋さんの話では、左官の勘太郎といふ奴は不斷から
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