氣で掻《か》つ食《くら》つてゐやあがる。あんまり人を馬鹿にしてゐやあがるから、おれが一番きめ付けてやると、逆ねぢに食つてかゝつて來やあがる。野郎め、ゆうべは何處かで振られて來やあがつて、その八つ中《あた》りを兄貴に持つて來るなんて、途方も途徹もねえ奴だ。おれが腹を立つのも無理はあるめえ。
助八 一年に一度や二度ぐらゐ兄貴に飯を炊かせたつて罰のあたるほどのこともあるめえ。第一その米はだれが買つたんだよ。
助十 おれはお預けの身の上だ。
助八 おあづけを好い幸ひにして、弟にばかり働かせることがあるものか。せめて小遣《こづか》ひ取りに草鞋《わらじ》でも綯《な》へといふのに、それもしねえで毎日毎晩ごろ/\してゐやあがる。一體、家《うち》の兄貴だの、隣の權三だのといふ野郎どもを、無事に歸してよこすといふ、お奉行樣の氣が知れねえ。このあひだから牢屋へぶち込んで置けばいゝのだ。
權三 こいつも嚊《かゝあ》と同じやうなことを云やあがる。手前の兄貴はどうだか知らねえが、この權三は牢に入れられるやうな惡いことはしねえのだ。うそだと思ふなら、大岡樣のところへ行つて聽いてみろ。
助八 えゝ、わざ/\聽きに行く
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