助も手傳ひて、よき隙を見て助十と助八のあひだに突き出し、その駕籠を枷《かせ》にして二人を隔てる。)
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助十 えゝ、邪魔なものを持出しやあがるな。
助八 早く退《ど》けろ、退けてくれ。
雲哲 まあ、待つた、待つた。
願哲 あぶない、あぶない。
與助 兄弟喧嘩もいゝ加減にしなさい。
權三 さう/″\しい奴等だな。(縁先に出る。)おい、助十。もう止せよ。おれたちは町内あづけの身の上だから、むやみに騷ぎ立てるとお咎めを受けるのを知らねえか。
助十 そりやあおれも知つてゐるが、あの野郎があんまり癪に障《さは》るからよ。
おかん (表に出る。)朝つぱらから喧嘩なんぞをして見つともないぢやないが。一體どうしたの。
助十 町内あづけの身の上で、うつかりと出あるくわけにも行かず、よんどころなしに小さくなつてゐると、あの野郎め、その思ひやりも無しに毎晩遊び歩いてゐやあがつて、ゆうべもたうとう歸《けえ》らねえ。仕方がねえから、今朝もおれが水を汲む、飯を炊くといふ始末だ。そこへぼんやり歸つて來やあがつて、碌に挨拶もしねえでおれの炊いた飯を平
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