て、おれは御番所《ごばんしよ》へ出なければならないから、井戸がへの方はまあ宜しく遣つてくれ。おゝ、さうだ。おまへにも用がある。願哲は權三の繩取りをして、おまへは助十の繩を取つて行け。
與助 (おどろいて。)え、どこへまゐります。
六郎 南の御奉行所へ行くのだ。
與助 え。(ふるへる。)
六郎 なにも怖がることはない。おれが一緒に附いて行くのだから安心しろ。
與助 はい、はい。
六郎 併し猿を背負つてゐては少し困るな。だれかに預けて行け。
與助 いえ、この猿めは迚《とて》もわたくしの傍を離れませんから、一緒に連れて行かして下さい。
六郎 では、まあ勝手にするがいゝや。(一同に。)さあ、めいめいの役割がきまつたら、日の暮れないうちに出かけようぜ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ]
(願哲は權三の繩を取り、與助は助十の繩を取りて引立てる。助八と雲哲は駕籠を舁《か》き上げようとして、雲哲はよろける。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
助八 おい、おい、しつかりしろよ。
雲哲 おれは素人《しらうと》だ。仕方がない。
[#ここで字下げ終わり]
前へ 次へ
全84ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング