て、理不盡の亂暴|狼藉《らうぜき》をはたらき……。
權三 (おどろいて。)嘘だよ、うそだよ。おれ達が何をするものか。 
助十 御奉行所へ行つて、そんな出鱈目《でたらめ》を云はれちやあ大變だ。
六郎 まあ、騷ぐなよ。そのくらゐに云はなければ中々お取上げにはならないのだ。そこで、よんどころなく長屋中の者うち寄つて右三人を取押へ、かやうに引立ててまゐりましたれば、何とぞ上の御威光を以て彼等に理解を加へ、穩便《をんびん》に引取りまするやうに御取計《おとりはか》らひを願ひ上げますると、おれの口から斯う訴へ出るのだ。どうだ、判つたか。かうすれば屹とお取上げになるに違ひない。
助八 なるほどさうかも知れねえな。こいつは巧めえことを考へ出したね。
おかん 大屋さんは正直な人だと思つてゐたら、うそをつくのは中々上手だわねえ。
助八 まつたく隅へは置かれねえや。
六郎 つまらないことを褒《ほ》めるな。こつちは一生懸命だ。そこで、お白洲《しらす》へ呼び込まれたら、それからはめい/\の腕次第で、彦三郎さんは自分の思ふことを存分に云うが好し、權三と助十は自分の見た通りを逐一申立てて、馬喰町の隱居殺しはどうしても
前へ 次へ
全84ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング