ゐる若い人は小間物屋の彦兵衞さんの息子で、これからおまへの兄貴と權三を證人にして、お父さんの無實の罪を訴へて出ようといふのだ。
助八 證人ならば家主が附添ひで、おとなしく連れて行くがいゝぢやあねえか。なんで繩をかけるのだ。
六郎 そのわけは今云つて聞かせる。みんなもよく聞け。今度の一件は並一通《なみひととほ》りのことではいけない。本來ならばこの彦三郎さんがどこにか宿を取つて、その町名主の手から御奉行所へ訴へて出るのが順當だが、そんなことでは容易に埒《らち》が明かないばかりか、一旦落着したお捌《さば》きの再吟味を願ふなどと云つては、御奉行樣のお手許《てもと》まで達《とゞ》かないうちに、下役人の手で握り潰《つぶ》されてしまふのは知れてゐる。そこでおれが考へたには、この三人に繩をかけて御奉行所へ牽いて行つて、小間物屋彦兵衞のせがれ彦三郎と申す者がわたくし方へ押掛けてまゐり、父彦兵衞は決して盜みなど致すものでない。それを罪人と定められたは恐れながらお上のお眼がね違ひ、二つには家主の不穿索《ふせんさく》と、さん/″\の惡口を云ひ募《つの》るのみか、長屋の駕籠かき權三助十の兩人もその腰押しをいたし
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