いから、わたしがどんな難儀をしても、屹とお父さんの無實を訴へて來ると、母や弟にも立派に約束して參つたのでござります。
六郎 さうやかましく云はれると、氣が散つてならない。まあ靜かにして考へさせてくれなければいけない。
彦三郎 (せいて。)このまゝのめ[#「のめ」に傍点]/\と戻りましては、母にも弟にも會はす顏がござりません。わたくしを生かすも殺すも、おまへ樣のお心一つでござります。
六郎 むゝ、判つた、判つた。よく判つてゐます。それだからわたしも色々に工夫を凝《こら》してゐるのだ。(上の方に向つて。)おい、おい。そつちの井戸がへも少し待つてくれ。さうざうしいと、どうも好い智慧が出ない。
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(六郎兵衞は又かんがへてゐるを、彦三郎は待ち兼ねるやうに眺めてゐる。おかんは貰ひ泣の眼をふいてゐる。)
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權三 (小聲で。)どうだい。いつそ思ひ切つて云つてみようか。
助十 だが、あぶねえ。うつかりした事を云つて、飛んだ係り合ひになると詰らねえぜ。
權三 それもさうだが……。(考へる。
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