な。(かんがへてゐる。)
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(このあひだに、家の奧よりおかんがそつと出で、そこにある團扇を把《と》つて、氣のつかぬやうに六郎兵衞と彦三郎を煽いでゐる。上のかたより助十は汗をふきながら出づ。)
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助十 あゝ、あつい、暑い。
權三 (小聲で。)おい、おい。
助十 なんだ。
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(權三は彦三郎を指さして眼で知らせれば、助十もうなづいて、竊《そつ》と家のうしろを廻つてゆく。)
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彦三郎 もし、心ばかりは逸《はや》つても、わたくしは若年者《じやくねんもの》、殊に御當地の勝手は知れず、なんとも致方がござりません。おまへ樣によい御分別はござりますまいか。
六郎 まあ、待つてくれ。わたしも頻《しき》りに考へてゐるのだが、これはなか/\むづかしい。
彦三郎 むづかしいと申しても、どうしても此儘では濟まされません。大坂を立ちます時にも、お父さんに限つてそんなことのあらう筈がな
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