は南の町奉行所のお係りで、お役人は各奉行ときこえてゐる大岡越前守樣だ。そのお捌《さば》きで落着《らくちやく》したことだから、決して間違ひのあらう筈はないのだ。
彦三郎 さきほどは御吟味中と仰しやりましたが、それではもう落着いたしたのでござりますか。
六郎 實は本人の白状で事件は落着、そのお仕置は獄門ときまつた時に、彦兵衞さんは牢死したのだ。もう何と云つても仕方がない。せめてその死骸を引取つてやりたいと思つて、色々お嘆き申してみたが、重罪人であるから死骸を下げ渡すことは相成らぬといふので、殘念ながらどうすることも出來なかつたのだ。必ず惡く思はないで下さい。
彦三郎 情けないことでござりますな。(泣く。)
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(このあひだに、上のかたよりおかん出づ。權三は眼で招けば、おかんも竊《そつ》と家のうしろをまはつてゆく。權三は何かさゝやけば、おかんは首肯《うなづ》いて、再び下のかたより自分の家のうしろへ廻つてゆく。權三は助十の家の縁に腰をかける。)
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彦三郎 (眼をふいて。)いくら名
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