て1字下げ]
權三 この野郎、邪魔な奴だ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ]
(權三に蹴られて、彦三郎はつまづき倒れる。水の音。一同は見返りもせずに、綱をひいて上のかたへ引返して去《さ》る。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
六郎 これ、これ、手暴《てあら》いことをするな。(彦三郎を介抱する。)もし、飛んだ失禮をいたしました。
彦三郎 お江戸馴れませぬ者がお取込みのなかへ出まして、わたくしこそ飛んだお邪魔をいたして相濟みません。
六郎 いや、お若いにも似合はず御丁寧の御挨拶で、重々痛み入りました。御覽の通り、けふはこの長屋の井戸換へで混雜してゐるところへ、丁度におまへさんがお出でなすつたので、どうもお氣の毒なことを致しました。店子《たなこ》に代つて家主のわたしがお詫をしますから、どうぞ料簡《れうけん》して遣つてください。おゝ、おゝ、泥だらけになつた。(手拭で彦三郎の膝のあたりを拭いてやる。)
彦三郎 いえ、おかまひ下さりますな。では、おまへ樣がこゝのお家主樣でござりますか。
六郎 はい、はい。こゝは神田の橋本町、その長屋をあづかつ
前へ
次へ
全84ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング