がへにも出られず、この素頭《すあたま》をじり[#「じり」に傍点]/\と照りつけられては、眼がくらみさうになる。
雲哲 まつたく今日の井戸がへは焦熱《せうねつ》地獄だ。
おかん お前さん達もあたしのやうに手拭でつつんでゐれば好いぢやありませんか。
願哲 かういふ時には女は格別、男は鉢卷でないと何《ど》うも威勢がよくないからな。
助八 はゝ、笑はせるぜ。鉢卷をしたつて、すつとこ[#「すつとこ」に傍点]被《かぶ》りをしたつて、願人坊主の相場がどう上るものか。
おかん 與助さん。おまへさんもお飮みでないかえ。(茶碗を出す。)
與助 (進みよりて丁寧に會釋する。)はい、はい。いや、これはありがたい。實はさつきから喉《のど》が渇《かわ》いてひり[#「ひり」に傍点]/\してゐました。
助八 いくらおめえの商賣でも、長屋の井戸がへにえて[#「えて」に傍点]公を背負《しよ》つて出ることもあるめえぢやあねえか。
與助 それがね。(猿をみかへる。)なにしろ這奴《こいつ》がよく馴染《なじ》んでゐるのでね。ちつとの間でもわたしの傍を離れないのですよ。
おかん 畜生でも可愛いもんだねえ。
與助 可愛いもんですよ。
前へ
次へ
全84ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング