馬鹿に相違ねえ。そんなものは打つちやつて置いて、早く行け、行け。
助八 いやだ、いやだ。こん畜生を井戸へ叩つ込まなけりやあ料簡出來ねえ。
助十 折角井戸がへをしたところへ、そんなものを叩つ込まれて堪るものか。馬鹿野郎、よせと云ふのに……。
助八 止《よ》さねえ、止さねえ。
助十 そんなら猿の身代りに手前をぶち込むからさう思へ。
助八 なにを云やあがる。
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(兄弟はむしり合ひ、なぐり合ひの喧嘩になる。その隙をみて與助は猿を取返し、逆さまに背負ひて上のかたへ走り去る。)
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權三 仕樣のねえ奴等だな。(おかんに。)留めてやれ、留めてやれ。
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(夫婦は縁から降りて、無理に兄弟を引き分ける。)
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權三 毎日めづらしくもねえ、兄弟喧嘩はよせ、よせ。
おかん 八さんも兄さんに楯《たて》を突くのはよくないよ。
助八 べらぼうめ。猿の味方をして弟をなぐるやうな奴は兄貴ぢや
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