ばならないから、忙しい時にはつい徹夜をするという事にもなります。舞台装置をやるには、一場一場の画をかいてやらなければいけない。それだけでもいい加減骨が折れるのに、衣裳も新規のものだと大体の形を画いて著物の模様までつけてやる。その見本によって衣裳屋が拵えるので、それも一人や二人じゃない、大勢出て来る連中のを皆画いてやるのだから大変です。道具の方の世話も焼いて指図しなければならず、初日に行って見て、どうもあの松の木が小さくて工合が悪いと思えば、直《すぐ》にそれを直す。二日三日位までは毎日行って見る。これにも半日位は潰れます。役者と作者との間に立って、一番暇潰しで、しかも縁の下の力持になる。あんな割の悪い仕事はない。好《すき》でなければやれるわけのものではないのです。
それに作者というものは――私には限りませんが、書く方をいい加減にしておいて、あとは舞台装置家が何とかしてくれるだろうというような料簡でいる。脚本に道具が委《くわ》しく指定してあればそれによって画けるわけだけれども、ただ農家の内部位な事じゃ、どうやっていいかわからない。一口に海岸といったところで、海岸にもいろいろあるから困るわ
前へ
次へ
全19ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング