野暮をいうな」位で話は済むんだが、今ではそう簡単に行かないから面倒です。
 これは芝居の方も悪いのです。狂言を決定するのが非常に遅い。というと、それは私たちが書くのが遅いからだと順押しになりますが、五月なら五月の芝居に何を出すか、それがはっきりきまるのは前月の二十日頃なのです。警視庁の方では、二週間以前に脚本を提出しろということになっていますけれども、マア三、四日のところは御目こぼしがあるんでしょう。いよいよ上演するまでに十日位しか余裕がない。それから急に舞台装置とか衣裳の考証とかいう方を頼みに行く。米斎君はじめ、不断から用意のある人だからいいが、そうでなければ忽《たちま》ち困る話です。近頃の見物はなかなかやかましくなって、彼処《あそこ》で富士が見えるはずはないと、いうような理窟をいい出されるから、時によると夜行の汽車で現場を見に行かなければならないような事も出来て来る。それに道具を拵える暇がありますから、十日というけれども、せいぜい三日か四日で片附けて、あとはそういう方の暇を見てやらなければならない。博物館へ行って調べるとか誰のうちへ何を見に行くとかいう事を、その短い時間でやらなけれ
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