けですが、だんだんそういう書き方の脚本が殖《ふ》えて来ましたから舞台装置家も随分難儀なことがあるだろうと思う。役者は役者で、やりにくいとか何とかいいますし、よほど親切な我慢強い人でないと、喧嘩《けんか》になってしまう虞《おそ》れがある。米斎君はその点は割合に練れていて、芝居の都合を考えては斟酌してくれる方でしたが、ある時にはひどく強情で、固く執《と》って動かないところがありました。時には悪強情だと思われる位で、例えばあの役には烏帽子《えぼし》を被せないで下さいといっても、いや、あれはどうしても被せなければいけないという。そういう場合には仕方がないから、役者に烏帽子を被るなといっておくのですが、舞台へ出るのを見ると、チャンと烏帽子を被っている。あとで部屋へ行って、どうして私のいった通りにしないのだ、と聞くと、実は烏帽子を被らずに出ようとしたら、久保田さんがどうしても被らなけれゃいけないと仰《おっし》ゃるものですから、というのです。だから何時でも素直に聞いてくれるわけじゃない。すべて芸術家気質というものでしょうが、米斎君もたしかにそういう気骨を持っていました。それがため、往々興行主と意見の
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