やって下すったこともありましたが、私どもが何時《いつ》も米斎君に御願いするのは、万事芝居に都合のいいように作って下さるからなのです。役者がしにくいような場合には、脚本をよく考えて下すって、――例えばある部屋が舞台になる場合、実際からいえばもっと狭かるべきはずであっても、ここは広く拵《こしら》えなければならぬとなるとチャンと芝居のしいいように斟酌《しんしゃく》して下さる。随分場合によると、部屋の中に甲冑を著て刀をさした人間が何人も出なければならぬこともありますから、立とうとする時に刀の鐺《こじり》で障子や壁を破るような虞《おそ》れがないでもない。また道具の飾り方によっては主要な人物が一方からは見えても、一方からは見えにくいというようなこともある。米斎君はそういう点によく注意して下すって、これはこうしては嘘ですが、芝居だからマアこうしておきましょうとか、ちょっと見た目がよくっても芝居がしにくいような道具じゃ困るとかいう風に、斟酌してやって下すったものです。
役者の扮装や何かにしても同じ事で、考証して下さる方が何でも本当本当ということになると、芝居の方じゃ困る場合が出て来る。実際は短い筒ッ
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