の打撃の強かったもの、あるいはその打撃に堪え得られなかった者は、更に不幸の運命に導かれて行ったのではあるまいか。死んだ人々のうちに婦人の多いということも、注意に値すると思われた。
その当時、直《ただ》ちに梁《はり》に撃《う》たれ、直ちに火に焚《や》かれたものは、勿論悲惨の極みである。しかも一旦《いったん》は幸いにその危機を脱出し得ながら、その後更に肉体にも精神にも種々の艱苦《かんく》を嘗《な》めて、結局は死の手を免れ得なかった人々もまた悲惨である。畳の上で死なれたのが幸いであるといえばいうようなものの、前者と後者とのあいだに著るしい相違はないように思われる。特にわたしの近所ばかりでなく、不幸なる後者は到るところの罹災者のあいだにも見出されるのではあるまいか。また、その人々のうちには、あの時いっそ一《ひ》と思いに死んだ方が優《ま》しであったなどと思った人もないとはいえない。世に悼《いた》ましいことである。
番町辺へ行ってみると、荒凉のありさまは更にひどかった。ここらは比較的に大邸宅が多いので、慌ててバラックなどを建てるものはなく、区劃整理の決定するまでは皆そのままに打捨ててあるので、
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