そこもここも一面の芒原である。そのなかに半分|毀《こわ》れかかった家などが化物屋敷のように残っているのも物凄く見られた。日中は格別、日没後に婦人などは安心してここらを通行することは出来そうもない。
 区劃整理はいつ決定するのか、東京市内の草原はいつ取除けられるのか。今のありさまではわたしも当分は古巣へ戻ることを許されぬであろう。先月以来照りつづいた空は青々と晴れている。地にも青い草が戦《そよ》いでいる。わたしは荒野を辿《たど》るような寂しい心持で、電車道の方へ引返した。[#地から1字上げ](大正十三年九月)



底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2007(平成19)年10月16日第1刷発行
   2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「猫やなぎ」岡倉書房
   1934(昭和9)年4月初版発行
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの
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