》る。おきよは銅盥と手拭を持ちて奧に入る。)
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供の男 これからどちらへ參ります。
醫者 やはり昨日の通りだ。
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(二人は向うへ行きかゝる時、下のかたよりお作、十八九歳、祇園町の揚屋《あげや》の娘、派手なこしらへにて、手に桃の花を持ちて出づ。)
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お作 (呼びとめる)もし、もし……。
醫者 (みかへる)おゝ、お作どのか。
お作 (進みよる)早速でござりますが……。(内を窺《うかゞ》ひて)病人の容態は如何《いかゞ》でござりませうか。
醫者 (嘆息して)お氣の毒だが、どうも宜しくない。
お作 (愁はしげに)惡うござりますか。
醫者 一日ましに惡くなるばかりだ。あれほどの大病人が起きてゐては、どうにもしやうがない。あんな無理をしてゐては、所詮長くは持つまいと思はれる。
お作 さうでござりませうな。
醫者 今殺すのは惜しい人だから、わたしも色々心配してゐるのだが。なにしろ強情だからな。まま、お前からもよく意見をして下さい。
お作 はい
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