きよは銅盥と手拭を持つて出で、醫者のそばに置きて奧に入る。鶯の聲。)
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半二 どうです。きのふよりも惡くなりましたか。
醫者 さあ。(躊躇して)別に惡くなつたと云ふ程でもないが、なにしろ病人が床の上に起き直つて、よるも晝も書きづめでは、耆婆扁鵲《きばへんじやく》も匙を投げなければならない。お前さんは操《あやつ》りの爲には無くてならない大事のお人だ。せい/″\養生をして早く癒つて面白いものを見せて下さい。
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(醫者は手を洗つてゐると、おきよは奧より茶を持つて出づ。)
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醫者 いや、もうお構ひなさるな。くどいやうだが、半二どの。十日の辛抱が出來なければ、せめて三日か五日のあひだは、仕事を休んで寢てゐて下さい。かならず無理をしてはなりませんぞ。
半二 (うるさゝうに)はい、はい。
醫者 では、どうぞお大事に……。
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(醫者はおきよに送られて、供の男と共に枝折戸の外へ出づ。半二はすぐに机の方へむき直りて筆を執《と
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