も知れません。(云ひながら半二の顏を見る)そこで、どうです。ちつとは良いやうですな。
半二 (笑ふ)良いか惡いか自分にも判りませんが、なにしろ書きかけてゐる物が氣になるので、けふも朝から起きてゐました。
醫者 それがどうも宜《よろ》しくない。この間からもたび/\云ふ通りここ十日か半月が大事の所だから、なるべく無理をしないで下さい。去年の秋頃からお前さんのからだは餘ほど弱つてゐるところへ、今年の餘寒が身に堪《こた》へたのだから、だん/\に時候が好くなつて、花でも咲くやうになれば、自然に癒る。(笑ひながら)それまではまあ醫者の云ふことを肯《き》いて、おとなしく寢てゐて下さらなければ困るな。
半二 おとなしくしてゐれば癒りませうか。
醫者 癒る、癒る。きつと癒ります。
半二 わたしも癒りたいのは山々だが……。それがどうもむづかしさうに思はれるので、せめて書きかけてゐる物だけをしまひまで仕上げて置きたいと、かうして床の上に起きてゐるのですから、我儘な奴だと叱らないで下さい。
醫者 どうも困るな、まあ、まあ、お脈を拜見。
[#ここから5字下げ]
(半二は澁々ながらに手を出せば、醫者は脈をみる。お
前へ 次へ
全28ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング