夫と吉治が六つ目を語つて聞かせるさうだ。
お作 それはよい所へまゐり合せました。
庄吉 (再び障子をあける)先生、これから沼津の段の口を鳥渡《ちよつと》お聽きに入れます。(障子をしめる)
[#ここから5字下げ]
(これより吉治が三味線をひき、染太夫が語るこゝろにて、伊賀の沼津の淨瑠璃がきこえる。)
※[#歌記号、1−3−28]あづま路に、かうも名高き沼津の里、富士見白酒名物を、一つ召せ/\駕籠《かご》に召せ、お駕籠やろかい參らうか、お駕籠お駕籠と稻むらの蔭に巣を張り待ちかける、蜘蛛の習《ならひ》と知られたり。浮世渡りはさま/″\に、草の種《たね》かや人目には、荷物もしやんと供廻《ともまは》り、泊りをいそぐ二人連れ――
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
半二 あ、絲が切れたな。
お作 ほんに絲が切れたやうでござります。
庄吉 (又もや障子をあける)どうも相濟みません。絲が切れましたので、しばらくお待ち下さりませ。(障子をしめる)
半二 (お作に)絲が切れたので思ひ出したが、おまへに云つて置くことがある。わたしは我慢して八つ目までは書いたものゝ、無事に
前へ 次へ
全28ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング