るばかりですからな。
［＃ここから５字下げ］
（上のかたの障子をあけて、庄吉が聲をかける。）
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
庄吉 もし、太夫さん、染太夫さん。
染太夫 あい、あい。
［＃ここから５字下げ］
（薄く雨の音、染太夫は起ち上りて空を見る。）
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
染太夫 おゝ、たうたう降り出したか。
半二 降つたら今夜は泊まつておいでなさい。
染太夫 山科の里で春雨《はるさめ》を聽きながら、一夜を明かすのも好いかも知れませんな。まつたくこつちは閑靜だ。
庄吉 太夫さん、太夫さん。
染太夫 はて、せはしない男だ。
［＃ここから５字下げ］
（染太夫は上のかたの小座敷に入る。薄く雨の音。鶯の聲。やがて障子の内にて義太夫の三味線の調子をあはせる音がきこえる。半二は机に倚りかゝつてゐる。奧よりお作出づ。）
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
お作 あちらではお淨瑠璃が始まるのでござりますか。
半二 むゝ、今書きかけてゐる伊賀越の節附がもう出來たといふので、染太
前へ
次へ
全28ﾍﾟｰｼﾞ中23ﾍﾟｰｼﾞ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
ﾄｯﾌﾟﾍﾟｰｼﾞ
登録
ご利用方法
ﾛｸﾞｲﾝ
携帯用掲示板ﾚﾝﾀﾙ
携帯ｷｬｯｼﾝｸﾞ