したか。
半二 まだ清書は出來ないが、けふの午頃までに八つ目の草稿は出來上つた。(笑ひながら)八つ目は岡崎の段で、政右衞門の人形を手一杯に働かせなければならない。それだけに、ちつと手堪へのある場であつたが、先づ思ひ通りに書けたらしい。その次は伏見《ふしみ》の宿屋と大詰《おほづめ》の仇討……。それで十段物がとゞこほりなく纒《まと》まるのだ。
庄吉 (手をついて)ありがたうござります。有難うござります。天を拜し地を拜しとは全くこの事で、わたくしも先づほつといたしました。座元も定めて大喜びでござりませう。歸りましたら早速に、表看板だけでも揚げて置いて、前景氣を附けたいと存じますが、その外題《げだい》はどういふことに決まりました。
半二 外題は……。「伊賀越道中雙六《いがごえだうちゆうすごろく》」はどうだな。
庄吉 「伊賀越道中雙六」……。なるほど、それは結構でござりませう。
染太夫 むゝ。道中雙六は面白いな。
吉治 面白い、面白い。七つ目からの先は知りませんが、六つ目まででも確に近來の當り作だと、本讀みを聽いた者がみな感心してゐました。
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(半二はだまつて笑つてゐる。)
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