[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
染太夫 そこで、今度は吉治さんとわたしとが六つ目の沼津の段を受持つことになりました。(吉治をみかへる)この人も節附にはなか/\苦勞しましてな。けふこゝへ來るのを幸ひに、急所急所の節附を一度お互に入れて置きたいといふので、二人はそのつもりで出て來ました。
吉治 お氣に入るか何うかは判りませんが、先づ出來るだけは工夫してみました。せめてはお米《よね》のサワリだけでも、一度お聽き下さいませんか。
半二 聽きませう。(形をあらためる)聽かせて下さい。
吉治 併《しか》しこゝは少し狹いやうでな。殊に病人の枕元では餘りに騷々しからう。ほかにお座敷は無いかな。
庄吉 (上のかたの小座敷を指す)では、あすこではどうでござります。
吉治 むゝ、それがよからう。お前、案内してくだされ。
庄吉 はい、はい。(三味線を持ちて先に立つ)
吉治 では、染太夫さん。
染太夫 あい。すぐにあとから行きます。 
[#ここから5字下げ]
(吉治と庄吉は縁傳ひに、上のかたの小座敷に入る。染太夫は起《た》ちかけて又坐る。)
[#ここで字下げ終わり]

前へ 次へ
全28ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング