、庄吉どのは眼が早いな。
吉治 女と見れば、いつもこの通りだ。
庄吉 力彌さんのお屋敷へ、小浪が先廻りをしてゐるには驚きましたな。
半二 (笑ひながら)あれは祇園町の揚屋の娘で、お作といふのだ。
庄吉 はゝあ、祇園町の揚屋の娘……。道理で、派手な美しい娘だと思ひました。それが先生の御看病に參るのでござりますか。
吉治 お前はひどく氣になるとみえて、根ほり葉掘りの詮議だな。
半二 おやぢは先年死んでしまつて、今は女あるじだが、おふくろも娘も揃つての、淨瑠璃好きで、娘は淨瑠璃の稽古をするひまに、自分も慰みに淨瑠璃をかいて、とき/″\私のところへ添削を頼みに來るのだ。
庄吉 あの娘が自分で淨瑠璃をかきますか。それはいよ/\頼もしいことだ。あゝいふ娘に色つぽい心中物でも書かせて見たうござりますな。して、これまでにどんな物を書きました。
染太夫 いや、この男は惡い癖で、女の話をはじめたら際限がない。それよりも肝腎の用向きを早く話したらどうだ。
庄吉 (あたまを掻く)はい、はい。では、早速ながら先生に申上げます。大かたお聞き及びでもござりませうが、この正月の芝居は「新薄雪物語《しんうすゆきものがた
前へ 次へ
全28ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング