り》」と「加々見山《かゞみやま》」でござりました。何分にも「新薄雪」は蒸返し物の上に、「加々見山」は江戸仕込みで、上方《かみがた》の人氣にしつくりと合はぬところがござりましたせゐか、どうも思はしくござりませんでした。
染太夫 氣の毒にも座元はかなりの痛手を負つて、その跡始末に困つてゐるやうに見受けられるが……。
庄吉 お察しの通りで、唯今使を出して遣つたのも、その金策の件でござります。
吉治 さなきだに景氣の引き立たないところへ、又ぞろ座元に痛手を負はせてまつたく氣の毒だ。
染太夫 わたし等もかゝり合ひだから、なんとか景氣を盛返してみせたいと、色々に燥つてはゐるものゝ、何分にも歌舞伎といふ大敵に蹴壓されて、殘念ながらどうにもならない。まつたく平家の壇の浦だ。
半二 (ため息をつく)その壇の浦はわたしもよく知つてゐる。(更にため息をつく)この正月もやはり不入りであつたか。
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(奧よりお作とおきよは茶碗と菓子鉢を運び出で、人々に茶をすすめる。)
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お作 ほかに御用はござりませんか。
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