ござりませんが、虎屋の饅頭を少々ばかり持參いたさせました。主人の逮夜の蛸肴《たこざかな》とも思召して、なにとぞ御賞翫《ごしやうぐわん》をねがひます。
半二 おゝ、虎屋の饅頭……。それを見ると、大阪がなつかしくなる。お見舞、たしかに頂戴しました。
庄吉 御挨拶では痛み入ります。(供の若者に)わたし達は少し手間取るであらうから、この状を持つて清水《きよみづ》まで一走り行つて來てくれ。
若者 かしこまりました。
庄吉 きつと返事を貰つて來るのだぞ。さつき云ひ聞かせた口上《こうじやう》も忘れるなよ。
若者 はい、はい。手負ながらもぬからぬ本藏、萬事こゝろ得て居ります。(會釋して下のかたへ立去る)
庄吉 あいつめ、おれに輪をかけたおどけ者だ。
半二 折角遠方を來て下さつたが、この通りで何もお構ひ申すことも出來ない。お持たせの饅頭でも持ち出して、お茶をあげろ。
おきよ はい、はい。
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(おきよとお作は奧に入る。)
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庄吉 (見送る)お女中はかねてお馴染でござりますが、あの若い美しいお人は……。
染太夫 はゝ
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