た。
「おお、玉藻の御。これにござったか」
織部清治は主人の言い付けで先刻から玉藻のありかを探していたのであった。同じ屋形に奉公の身ではあるが、玉藻は殿のあつい御寵愛を蒙って、息女のない忠通はさながら彼女を我が娘のようにもいとしがっていられるのであるから、清治も彼女に対しては、分外《ぶんがい》の敬意を払わなければならなかった。玉藻は自分の顔を見られるのを恐れるようにうつむいて立ち停まった。
「先刻から殿がおたずねでござる。早うあれへお越しなされ」と、清治は促《うなが》すように重ねて言った。
「わたしはいやじゃ。ゆるしてくだされ」と、玉藻は両袖で顔を掩ったままで、いつまでもそこに立ちすくんでいた。
その素振りが怪しいので清治は近寄って子細をただすと、その返事は泣き声で報いられた。玉藻は心持が悪いからもう座敷へは出ない。人びとの群れから遠く離れたあなたの亭《ちん》へ行ってしばらく休息していたいというのであった。清治はいよいよ心配して、すぐに医師《くすし》を呼ぼうかといったが、玉藻はそれもいやだと断わって、なんでもいいから人の目に触れないところへ行って、苦しい胸を休めていたいと言った。清
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