るには兼輔などの柔弱者《にゅうじゃくもの》がよい相手じゃ」
言い捨てて立ち去ろうとする頼長のゆく手をさえぎって、玉藻は突き当たるばかりに彼の胸のあたりへ我が身をもたせかけた。
「じゃによって、身にあまる望みと申したではござりませぬか」と、彼女は怨《えん》ずるように泣き声をふるわせた。
「身にあまるというても程のあるものじゃ」と、頼長はあざけるように笑った。「天下を望むよりも大きい恋じゃ。しょせん成らぬのは知れてあるわ」
自分の胸のあたりへ蛇のように纒《まと》いかかっている女の長い黒髪を無雑作《むぞうさ》に押しのけて、頼長は沓《くつ》を早めてあなたの亭《ちん》の方へ行ってしまった。
玉藻はきこえよがしに声を立てて桜の幹に倚《よ》りかかって泣き崩おれたが、もうその人の影が遠くなったのを覚ったときに、彼女は俄に空を仰いで物凄い笑みを洩らした。その顔の上にはらはらと降りかかって来る花びらを、彼女はうるさそうに扇で払いながら、これも座敷の方へ静かに立ち去ろうとした。春の日ももう暮れて、長い渡り廊をつたって女房どもや青侍たちが運んでゆく薄紅《うすあか》い灯の影が、木の間がくれに揺れながら通っ
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