《りゅうしゅうあじゃり》でおわすそうな。世にも誉れの高い碩学《せきがく》の聖《ひじり》、わたくしも一度お目見得して、眼《ま》のあたりに教化《きょうげ》を受けたい。お身さま御案内してくださらぬか」と、玉藻は思い入ったように言った。それは、彼女の口から恋歌の返しを兼輔の耳にそっとささやいた後であった。
「ほう、法性寺の叔父にお身はまだ一度も逢われぬか」と、兼輔はすこし不思議そうな顔をした。
法性寺は誰も知る通り、関白家|建立《こんりゅう》の寺である。忠通卿の尊崇なおざりでないことは兼輔もかねて知っていた。その寺の尊い阿闍梨に、玉藻が一度も顔をあわせていないというのは、なんだか理屈に合わないようにも思われた。
「阿闍梨は女子《おなご》がきついお嫌いそうな」と、玉藻はそれを説明するように寂しくほほえんだ。
甥の兼輔とは違って、叔父の隆秀阿闍梨は戒律堅固の高僧であった。彼は得度《とくど》しがたき悪魔として女人《にょにん》を憎んでいるらしく、いかなる貴人《あてびと》の奥方や姫君に対しても、彼は膝をまじえて語るのを好まなかった。忠通もそれをよく知っているので、法性寺詣でのときに限って、決して女子
前へ
次へ
全285ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング