御卑怯じゃ」
 兼輔は相手の心をはかりかねて、黙って立ち停まった。
「殿上人のうちでも、風流の名の高いお身さまじゃ。女子《おなご》をなぶるは常のことと思うてもいらりょうが、もしここに浅はかな一途《いちず》な女子があって、なぶらるるとは知らいで思いつめたら、お身さまそれをどうなされまする」
「われらは正直者、ひとをなぶった覚えはござらぬ」と、兼輔は眼で笑いながら空うそぶいた。
「いや、無いとは言わせませぬ。お身さま、これを御存じないか」
 玉藻は丁寧に畳んだ短冊をふところから探り出して、男の眼の前につきつけた。嬉しいと、さすがに恥ずかしいとが一つになって、兼輔は顔の色をすこし染めた。
「お身さまは御卑怯と言うたが無理か。この歌の返しを申し上げようとて人目を忍んでまいったものを、お身さまはむごく突き放して逃ぎょうとか」
 妖艶な瞳《ひとみ》のひかりに射られて、兼輔は肉も骨も一度にとろけるように感じた。玉藻は笑いながらその短冊を再び自分のふところに収めると、若い公家の魂もそれと一緒に、女のふところへ吸い込まれてしまった。

    二

「お身さまの叔父御は法性寺《ほっしょうじ》の隆秀阿闍梨
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