薄いというので、なにがしの女房たちや、なにがしの姫たちもみな華やかなよそおいを凝らして、その莚に列《つら》なっていた。その美しい衣の色や、袖の香や、楽の音《ね》や、それもこれも一つになって、あぶるように暖かい春のひかりの下に溶けて流れて、花も蝶も鶯も色をうしない声をひそめるばかりであった。
 これもその美しい絵巻物のなかから抜け出して来た一人であろう。縹色《はないろ》の新しい直衣《のうし》を着た若い公家《くげ》が春風に酔いを醒ませているらしく、水にただよう花の影をみおろしながら汀《みぎわ》の白い石の上に立っていると、うしろからそっと声をかけた者があった。男は振り向いて立烏帽子のひたいを押し直した。
「玉藻《たまも》の前《まえ》。きょうはいろいろの御款待《おんもてなし》、なにかと御苦労でござった」
 若い公家は左少弁兼輔《さしょうべんかねすけ》であった。色の白い、髯《ひげ》の薄い優雅の男振りで、詩文もつたなくない、歌も巧みであった。そのほかに絵もすこしばかり描いた。笛もよく吹いた。当代の殿上人のうちでも風流男《みやびおとこ》の誉れをうたわれて、なんの局《つぼね》、なんの女房としばしばあだ
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