、藻。わしは来年は男になって、烏帽子折りの商売《あきない》をするのじゃ。わしが腕かぎり働いたら、お前たち親子の暮らしには事欠かすまい。宮仕えなどして何になる。結局は地下《じげ》で暮らすのが安楽じゃ。第一おまえが奉公に出たら、病気の父御《ててご》はなんとなる。誰が介抱すると思うぞ。わが身の出世ばかりを願うて、親を忘れては不孝じゃぞ」
 第一の抗議で失敗した彼は、さらに孝行の二字を控え綱にして、女の心をひき戻そうとあせったが、それもすぐに切り放された。
「わたしが奉公するとなれば、父《とと》さまの御勘気も免《ゆ》るる。殿に願うて良い医師《くすし》を頼むことも出来る。なんのそれが不孝であろうぞ」
 千枝松はあとの句を継ぐことが出来なくなった。
 藻は勝ち誇ったように笑った。
「おまえとも久しい馴染みであったが、もうこれがお別れになろうも知れぬ。今もお前が言うた通り、来年は男になって、叔父さまや叔母さまに孝行しなされ」
 彼女は幽霊のように元の闇に消えてしまった。

    三

 千枝松はその晩眠らずに考えた。
「陶器師の婆の言うたに嘘はない。藻はむかしの藻でない。まるで生まれ変わった人のよ
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