う》をにらんでいた。そうして、呻《うめ》くようにただひと言いった。
「不思議じゃのう」
それは藻が屋形の四足門を送り出された頃であった。
二
千枝松は自分の家へいったん帰って、日のかたむく頃にまた出直して来た。彼は藻が見違えるような美しい衣《きぬ》を着て、見馴れない侍に連れてゆかれるのを見て、驚いて怪しんでその子細を聞きただそうとしたが、藻は彼には眼もくれないで行き過ぎてしまった。侍は扇で彼を打った。くやしいと悲しいとが一つになって、彼の眼にはしずくが宿った。彼は藻のひと群れのうしろ姿が遠くなるまで見送っていたが、それからすぐに藻の家へ行った。藻が関白の屋形へ召されたことを父の行綱から聞かされて、彼もようやく安心したが、屋形へ召されてからさてどうしたか、彼の胸にはやはり一種の不安が消えないので、家《うち》へ帰っても落ち着いていられなかった。
「病みあがりじゃ。もう日が暮るるにどこへゆく」と、叔母が叱るのをうしろに聞き流して、千枝松はそっと家をぬけ出した。
もう申《さる》の刻を過ぎたのであろう。綿のような秋の雲は、まだその裳《もすそ》を夕日に紅く染めていたが、そこらの木
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