蔭からは夕暮れの色がもうにじみ出してきて、うすら寒い秋風が路ばたのすすきの穂を白くゆすっていた。千枝松はけさとおなじように枯枝を杖にしてたどって来ると、陶器師の翁は門《かど》に立って高い空をみあげていた。
「千枝ま[#「ま」に傍点]よ。また来たか。藻はまだ戻るまいぞ」と、翁は笑いながら言った。
「まだ戻らぬか」と、千枝松は失望したように翁の顔を見つめた。「関白殿の屋形へ召されて、今頃まで何をしているのかのう」
「ここから京の上《かみ》まで女子の往き戻りじゃ。それだけでも相当のひまはかかろう。どうでも藻に逢いたくば、内へはいって待っていやれ。暮れるとだんだん寒うなるわ」
翁は両手をうしろに組みあわせながら、くさめを一つして簾《すだれ》のなかへ潜《くぐ》ってはいった。千枝松も黙って付いてはいると、婆は柴を炉にくべていた。
「病みあがりに朝晩出あるいて、叔母御がなんにも叱らぬかよ」と、婆はけむそうな眼をして言った。「おまえも藻にはきつい執心《しゅうしん》じゃが、末は女夫《めおと》になる約束でもしたのかの」
千枝松の顔は今燃え上がった柴の火に照らされて紅《あか》くなった。彼は煙りを避けるよ
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