ものをと、その当時にもいささか悔む心のきざしたのを、年月《としつき》の経つにつれて忘れてしまった。それが今度の歌から誘い出されて、北面行綱の名が忠通の胸によみがえった。まして自分の眼の前には、美しい乙女が泣いて父の赦免を訴えているではないか。忠通もおのずと涙ぐまれた。
「そちの父は勅勘の身じゃ。忠通の一存でとこうの返答はならぬが、その孝心にめでて願いの趣きは聞いて置く。時節を待て」
 この時代、関白殿下から直接にこういうお詞《ことば》がかかれば、遅かれ速かれ願意のつらぬくのは知れているので、藻は涙を収めてありがたくお礼を申し上げた。御前の首尾のよいのを見とどけて、清治は藻に退出をうながした。
「また召そうも知れぬ。その折りには重ねてまいれよ」
 忠通は当座の引出物《ひきでもの》として、うるわしい色紙短冊と、紅葉《もみじ》がさねの薄葉《うすよう》とを手ずから与えた。そうして、この後ともに敷島の道に出精《しゅっせい》せよと言い聞かせた。藻はその品々を押しいただいて、清治に伴われて元の庭口からしずかに退出した。
「さかしい乙女じゃ、やさしい乙女じゃ。独り寝の歌をささげたも、身の誉れを求むる心
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