んなりとも望め」
 藻の涙は染め絹の袖にはらはらとこぼれた。
「ありがたい仰せ。つたない腰折れをさばかりに御賞美下されまして、なんなりとも望めとある、そのおなさけに縋《すが》って、藻一生のお願いを憚りなく申し上げてもよろしゅうござりましょうか」
「おお、よい、よい。包まずに申せ」と、忠通は興《きょう》ありげにうなずいた。
「父行綱が御赦免《ごしゃめん》を……」
 言いかけて、彼女は恐るおそる縁の上に平伏した。忠通と信西とは眼をみあわせた。忠通の声はすこしく陰《くも》った。
「優しいことを申すよのう。恩賞として父の赦免を願うか」
 この願いは二様《によう》の意味で忠通のこころを動かした。第一は乙女の孝心に感じさせられたのと、もう一つには自分の過去に対する微かな悔み心を誘い出されたのとであった。北面《ほくめん》の行綱に狐を射よと命じたのは自分である。行綱が仕損じた場合に、ひどく気色《けしき》を損じたのも自分である。勅勘とはいえ、そのとき自分に彼を申しなだめてやる心があれば、行綱はおそらく家の職を剥がれずとも、済んだのであろう。勿論、彼にも落度はあるが、さまでに厳しい仕置きをせずともよかった
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