した威に打たれたように、大納言は無理に引き留めることも出来なかった。彼はこの美しい不思議な乙女のうしろ姿を夢のように見送っていたが、急に心づいて青侍を呼んだ。
「あの乙女のあとをつけて、いずこの何者か見とどけてまいれ」
 青侍を出してやって、師道は再び料紙を手に取って眺めた。容貌《きりょう》といい、手蹟《しゅせき》といい、これほどの乙女が地下《じげ》の者の胤《たね》であろう筈がない。あるいは然るべき人の姫ともあろう者が、このようないたずらをして興《きょう》じているのか。但しは鬼か狐か狸か。彼もその判断に迷っていると、日の暮れる頃になって青侍が疲れたような顔をして戻って来た。
「殿。あの乙女の宿は知れました」
「おお、見とどけて参ったか」
「京の東、山科郷の者でござりました。あたりの者に問いましたら、父はそのむかし北面の武士で坂部庄司なにがしとか申す者じゃと教えてくれました」
「北面の武士で坂部なにがし……」と、大納言は眼をとじて考えていたが、やがて思い出したように膝を打った。「おお、それじゃ。坂部庄司蔵人行綱……確かにそれじゃ。彼は大床《おおゆか》の階段《きざはし》の下で狐を射損じたた
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