ませぬ」と、藻は恥ずかしそうに答えた。
師道はすぐに硯や料紙のたぐいを運ばせた。この歌を広く世に募られてから、大納言の手もとへは毎日幾十枚の色紙や短冊がうずたかく積まれる。さすがは都、これほどの詠みびとが隠れているかと面白く思うにつけても、心に叶うような歌は一首も見いだされなかった。人の顔かたちを見て、もとよりその歌の高下《こうげ》を判ずるわけにはいかないが、この乙女の世にたぐいなき顔かたちと、そのさかしげな物の言い振りとを併せて考えると、師道の胸には一種の興味が湧いてきた。世にかくれたる才女が突然ここに現われて来て、自分を驚かすのではないかとも思われた。彼はじっと眼を据《す》えて、乙女の筆のなめらかに走るのを見つめていた。
「お恥ずかしゅうござります」
藻は料紙をささげて、大納言の前に手をついた。師道は待ち兼ねたように読んだ。
夜や更《ふ》けぬ 閨《ねや》のともしびいつか消えて わが影にさへ別れてしかも
「ほう」と、彼は思わず感嘆の息をついて、料紙のおもてと乙女の顔とを等分に見くらべていた。想像は事実となって、隠れたる才女が果たして彼を驚かしに来たのであった。
「おお、あっぱ
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