ように赤く染めた。遠くから覗いている千枝松の頬までが焦《こ》げるように熱くなってきた。火が十分燃えあがるのを見とどけて、藻に似た女は持っている唐団扇をたかく挙げると、それを合図に耳もつぶすような銅鑼《どら》の音が響いた。千枝松はまたびっくりして振り向くと、鬚《ひげ》の長い男と色の白い女とが階段の下へ牽き出されて来た。かれらも天竺の囚人のように、赤裸の両手を鉄の鎖につながれていた。
 千枝松はぞっとした。銅鑼の音はまた烈しく鳴りひびいて、二人の犠牲《いけにえ》は銅の柱のそばへ押しやられた。千枝松は初めて覚った。油を塗った柱に倚りかかった二人は、忽ちにからだを滑らせて地獄の火坑にころげ墜ちるのであろう。彼はもう堪まらなくなって眼をとじようとすると、階段の下に忙がわしい靴の音がきこえた。
 今ここへ駈け込んで来た人は、身の長《たけ》およそ七尺もあろうかと思われる赭《あか》ら顔の大男で、黄牛《あめうし》の皮鎧に真っ黒な鉄の兜をかぶって、手には大きい鉞《まさかり》を持っていた。彼は暴れ馬のように跳って柱のそばへ近寄ったかと思うと、大きい手をひろげて二人の犠牲を抱き止めた。それをさえぎろうとした家
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