へ入り込んで、白い象の上に乗っている白い女の顔をよそながら見たいと思った。
 彼はくろがねの扉を力まかせに叩いた。拳《こぶし》の骨は砕けるように痛んで、彼ははっと眼をさました。しかし彼はこのおそろしい夢の記憶を繰《く》り返すには余りに頭が疲れていた。彼は枕に顔を押し付けてまたすやすやと眠ってしまった。

    二

 第二の夢の世界は、前の天竺よりはずっと北へ偏寄《かたよ》っているらしく、大陸の寒い風にまき上げられる一面の砂煙りが、うす暗い空をさらに黄色く陰《くも》らせていた。宏大な宮殿がその渦巻く砂のなかに高くそびえていた。
 宮殿は南にむかって建てられているらしく、上がり口には高い階段《きざはし》があって、階段の上にも下にも白い石だたみを敷きつめて、上には錦の大きい帳《とばり》を垂れていた。ところどころに朱く塗った太い円い柱が立っていて、柱には鳳凰《ほうおう》や龍や虎のたぐいが金や銀や朱や碧や紫やいろいろの濃い彩色《さいしき》を施して、生きたもののようにあざやかに彫《ほ》られてあった。折りまわした長い欄干《てすり》は珠《たま》のように光っていた。千枝松はぬき足をして高い階段の下に
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