涼しげな瓔珞《ようらく》を長く垂れたものを、四人の痩せた男がめいめいに高くささげて来た。男はみな跣足《はだし》で、薄い鼠色の着物をきて、胸のあたりを露《あら》わに見せていた。それにつづいて、水色のうすものを着た八人の女が唐団扇《とううちわ》のようなものを捧げて来た。その次に小山のような巨大《おおき》い獣《けもの》がゆるぎ出して来た。千枝松は寺の懸け絵で見たことがあるので、それが象という天竺《てんじく》の獣であることを直ぐに覚った。象は雪のように白かった。
象の背中には欄干《てすり》の付いた輿《こし》のようなものを乗せていた。輿の上には男と女が乗っていた。象のあとからも大勢の男や女がつづいて来た。まわりの男も女もみな黒い肌を見せているのに、輿に乗っている女の色だけが象よりも白いので、千枝松も思わず眼をつけると、女はその白い胸や腕を誇るように露《あら》わして、肌も透き通るような薄くれないの羅衣《うすもの》を着ていた。千枝松はその顔をのぞいて、忽《たちま》ちあっと叫ぼうとして息を呑み込んだ。象の上の女は確かにかの藻であった。
さらによく視ると、女は藻よりも六、七歳も年上であるらしく思われ
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