た。彼女は藻のような無邪気らしい乙女でなかった。しかしその顔かたちは藻とちっとも違わなかった。どう見直してもやはり藻そのままであった。
「藻よ」と、彼は声をかけて見たくなった。もしそのまわりに大勢の人の眼がなかったら、彼は大きい象の背中に飛びあがって、女の白い腕に縋《すが》り付いたかもしれなかった。しかし藻に似た女はこちらを見向きもしないで、なにか笑いながらそばの男にささやくと、男は草の葉で編んだ冠《かんむり》のようなものを傾けて高く笑った。
空の色は火のように焼けていた。その燃えるような紅い空の下で音楽の響きが更に調子を高めると、花のかげから無数の毒蛇がつながって現われて来て、楽の音につれて一度にぬっと鎌首《かまくび》をあげた。そうしてそれがだんだんに大きい輪を作って、さながら踊りだしたように糾《よ》れたり縺《もつ》れたりして狂った。千枝松はいよいよ息をつめて眺めていると、更にひとむれの男や女がここへ追い立てられて来た。男も女も赤裸で、ふとい鉄の鎖でむごたらしくつながれていた。
この囚人《めしうど》はおよそ十人ばかりであろう。そのあとから二、三十人の男が片袒《かたはだ》ぬぎで長い
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