聞こえなかった。獣の迷う影も見えなかった。野州から陸奥《みちのく》につづく大きい平原は、大きい夜の底に墓場のように静かに眠っていた。
 事実に於いて、そこは怖ろしい墓場であった。金売りの商人が話した通りに、原の奥には大きい奇怪な石が横たわって、そのあたりには無数の骨や羽が累々《るいるい》と積みかさなっていた。千枝太郎は笠の檐《のき》も隠されるほど高い枯れすすきを泳ぐように掻きわけて、そこらにうず高い骸骨の山を踏み越えながら、ようようのことで石と向かい合って立った。風のない夜で、彼を取り巻いているすすきも茅萱もそよりとも動かなかった。石も動かなかった。
 千枝太郎は玉藻のたましいを宿したその石を月明かりでしばらく眺めていた。彼は玉藻のために後世《ごせ》を祈ろうとも思っていなかった。畜生にむかって菩提心をおこせと勧めようとも思っていなかった。彼はただ、藻《みくず》と玉藻《たまも》とを一つにあつめたその魔女が恋しいのである。石をじっと見つめている彼の眼からは、とどめ難い涙がはらはらとこぼれ、彼は堪まらなくなって、石にむかって呼んだ。
「藻よ、玉藻よ、千枝太郎じゃ」
 石は彼の思いなしか、それ
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