れまいものをとのお悔みも、さらさら御無理とも思われぬよ」と、小源二もさすがに鼻をつまらせて語った。
 千枝太郎は新しい悲しみに囚《とら》われた。玉藻がなぜ衣笠の命を奪って行ったか、それは誰にも判ろう筈はないが、彼には思い当たることがないでもなかった。玉藻のおそろしい妬み――それが禍いのもとであるらしく思われてならなかった。三浦介が孫娘を連れて来たのを悔むとは又違った意味で、彼は三浦の宿所へ出入りしたのをしきりに悔んだ。彼は祈祷の前夜の怪しい夢を今更のように思い出した。
「思えばほんにおいたわしいことじゃ」と、千枝太郎もうるんだ眼瞼《まぶた》をしばたたいた。「方がたの御心中もお察し申す。われらがお悔み申し上ぐると、三浦の殿にもよろしゅうお取次ぎ下され」
 小源二にわかれて、彼は暗い心持で土御門の屋敷に帰った。それでも日を経るにしたがって、彼の元気もだんだんに回復して来た。師匠やほかの弟子たちの晴れやかな顔を見ていると、彼の結ぼれたような胸もおのずと開けて来た。
 十日ほどの後に、彼は師匠の許しを得て山科へゆくと、叔父も叔母も彼の手柄を喜んでくれた。それと同時に、彼はここでも思いも寄らない
前へ 次へ
全285ページ中271ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング