うかがっているらしかったが、夜の亥《い》の刻(午後十時)を過ぎた頃に、梢をゆする夜風がひとしきり烈しく吹いて通ったかと思うと、今まで黙っていた古塚が地震《ないふる》ようにゆらゆらと揺るぎ出した。
この時である。壇のまん中に坐っていた泰親は忽ち起《た》ち上がって、ひたいにかざしていた白い幣を高くささげながら、塚を目がけて礑《はた》と投げつけると、大きい塚はひと揺れ烈しくゆれて、柘榴《ざくろ》を截《た》ち割ったように真っ二つに裂けた。
殺生石《せっしょうせき》
一
その夜であった。
関白の屋形には大勢の女房たちがあつまって、玉藻の前を中心に歌の莚《むしろ》が開かれていた。あしたは十三夜という今夜の月は白い真玉《またま》のように輝いて、さすがに広いこの屋形も小さく沈んで見えるばかりに、秋の夜の大空は千里の果てまでも高く澄んで拡がっていた。
今夜の題は「月不宿《つきやどらず》」というのであった。この難題には当代の歌詠みと知られた堀川や安芸や小大進《こだいしん》の才女たちも、うつむいた白い頸《うなじ》を見せて、当座の思案に打ち傾いていた。一座はしわぶきの声もなくて、鳴き弱
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