ったこおろぎが真垣《まがき》の裾に悲しくむせんでいるのが微かに聞こえるばかりであった。その沈黙は玉藻が溜息の声に破られた。
「おもえば思うほど、これは難題じゃ」
「ほんにそうでござりまする」と、堀川もその声に応じて、案じ悩んだ顔をあげた。「関白殿もむごいお人じゃ。これほどの難題にわたくしどもを苦しめようとは……」
「さりとてこうなれば女子《おなご》の意地じゃ。どうなりともして詠み出さいではのう」と、安芸もひたいを皺めながら言った。
 縁さきで忽ちに笑う声がきこえた。
「はは、予をむごいと言うか。久安百首にも選まれたほどの人びとが、これほどのことを詠み煩ろうては後《のち》の世の聞こえもあろうぞ」
 女たちは今ここへはいって来た人にむかって、その星のような眼を一度にあつめた。人はあるじの忠通であった。忠通は半※[#「※」は「日へんに向」、読みは「とき」、222−8]《はんとき》ほども前にこの難題を女たちの前に提出して置いて、しばらく自分の居間へ立ち戻っていたが、もうよい頃と思って又出直して来ると、どの人の色紙にも短尺にも筆のあとは見えなかったので、彼はたまらないほどに興《きょう》あるものの
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