た。
「おれはその場に居合わせたのではないが、侍女どもの話はこうじゃ」と、小源二は烏帽子の緒を締め直しながらささやいた。「きのうの夕暮れじゃ。衣笠どのが端《はし》近う出て虫の音に聞き惚れていらるると、庭の秋草の茂みから煙りのように物の影があらわれた。見るみるうちに、それが美しい上臈の姿になって、檜扇《ひおうぎ》におもてをかくしながら涼しげな声でこう言った。お身は京に長くとどまっていたら必ず禍いがある。早う故郷へ戻られいと……。しかし衣笠どのは気丈の生まれじゃで、眼も動かさずにじっとその怪しい物を見ていらるると、上臈はまた言った。わらわの申すことを用いねば命はないぞ、その期《ご》に及んで後悔おしやるなと、言うかと思うと、その檜扇の蔭から怖ろしい……人か幽霊か鬼か獣《けもの》か判らぬような、世に悽愴《ものすご》い変化《へんげ》のおもてが……。侍女どもはさすがにあっ[#「あっ」に傍点]とおびえて思わず顔を掩って俯伏してしまったが、衣笠どのはあくまでも気丈じゃ、懐ろ刀に手をかけて寄らば討とうと睨みつめていらるると、怪しい上臈はあざけるように、ほほと軽く笑いながら、再び草むらへ消えるように隠れて
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